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特許権侵害の公式/商標権侵害の公式

著者浅野 勝美
本体価格5,200円
判型・頁数A5版・325頁
ISBNコードISBN978-4-902003-05-5
発行日2007年5月7日
発行所株式会社 産業科学システムズ


■ 目次

第1部 特許権侵害の公式
   第1章 特許権侵害
    第1 はじめに
    第2 特許権侵害とは
   第2章 クレーム解釈
    第1 クレーム解釈の必要
    第2 クレーム解釈の資料
   第3章 特許権侵害の公式
    第1 大原則
    第2 特許権侵害の公式1(構成要件の付加)
    第3 特許権侵害の公式2(構成要件の欠缺)
    第4 特許権侵害の公式3(構成要件の変更)
    第5 例外(均等論)
    第6 特殊な場合
   第4章 クレーム解釈の実例
    第1 序
    第2 特許庁の取扱い
    第3 裁判所の判断
    第4 私見
    第5 現行実務
    第6 異なる結論
   第5章 特許権侵害の未然防止
    第1 特許調査
    第2 特許調査の手法
   第6章 特許権侵害の救済手段と対抗手段
    第1 権利者の救済手段
    第2 相手方の対抗手段
   第7章 明細書
    第1 明細書・特許請求の範囲の意義、機能
    第2 明細書の補正
    第3 明細書の作成

第2部 商標権侵害の公式
   第1章 商標法の仕組み
    第1 商標と商標の機能
    第2 商標権の侵害
   第2章 商標審査基準
    第1 一般的基準
    第2 結合商標の類否に関する基準
    第3 称呼類似に関する基準
   第3章 商標権侵害の公式
    第1 商標権侵害の公式1(単語商標に関する公式)
    第2 商標権侵害の公式2(結合商標に関する公式)
    第3 商標権侵害の公式3(結合商標に関する修正原則)
   第4章 商標権侵害の救済手段と対抗手段
    第1 権利者の救済手段
    第2 相手方の対抗手段
   第5章 ネーミング
    第1 実例の分類
    第2 商標登録要件
    第3 良いネーミング

■ はしがき

 永年特許商標の実務をしていて思うのは特許権取得の目的についてです。学者は概ね特許権の性質を排他性つまり模倣品の追及可能性としているのに対し、経営者は殆んど自己実施の保障つまり恙なく自製品を製造販売できることを特許取得の目的としているようです。前者と後者の目的は裏腹の関係にありますが、現実経営は軸足を後者においているということです。これは健全な経営姿勢と思え、その意味で理念と現実が乖離しています。
 実務をしているとグレーゾーンの相談ばかりでなく、明らかに「黒」、明らかに「白」と思われる権利侵害に関する相談があります。相談者の方々も大概は何十年選手という人達なのに、何故にこのような質問になるのか、と思っていました。弁護士さんからも同じような質問がありますし、的外れの議論をする人もいます。本書の目的はこのような現実に鑑み、主として企業向けに特許、商標に関する権利侵害を公式化したものです。とはいっても特許権侵害の実態は千種万様であり、一実務家がすべてのケースの解を導き出せる式など開発することはできません。しかしながら、明らかに「黒」のブラックゾーン、明らかに「白」のホワイトゾーンと、どちらか明確でないグレーゾーンとを割り出すことができれば、企業経営にとって物心共にプラスになるだけでなく、コスト低減に寄与することは間違いありません。ブラックゾーンには近づかないように心掛け、ホワイトゾーンと確信したときは全力を傾けることができるからです。そしてグレーゾーンとみたときに専門家に助力を仰げばよく、これはコスト低減、効率アップに寄与する筈です。
 本書の特徴は、特許権侵害を数式という形で説明しています。これは実務現場の要望に応えたものだからです。実務現場で感じるのは企業の研究員や特許マンは殆どが技術者であり、ことばよりも数式で話す方が得意だということです。ところが、特許権侵害は特許請求の範囲の記載がことばで記載されていることから非常にとっつき難いという印象です。特許権侵害の説明を数式でしたところ得心してくれたことがありました。本書はこうした現場の声を反映したものです。
 また本書の特徴は、特許権侵害の公式と商標権の侵害の公式を1つの本の中で論じています。これは次の理由によります。(A+B)の構成要件からなる特許権は(A+B+C)の構成をとる対象物に及ぶ、また(A)のみの構成をとる対象物には及ばないという特許権侵害の公式があります。生半可通はこれを商標権侵害にも適用し、(A+B)からなる結合商標の商標権の効力を特許権侵害と同様に判断しようとします。本文で詳細に論じるようにこれは誤りです。特許権と商標権の権利侵害の理論は異なるのです。これが特許権侵害の公式と商標権の侵害の公式を1つの本の中で取り扱う理由です。
 本書の第3の特徴は実務的な感覚で書いているということです。私は弁理士登録後実務修業、独立開業を通して一貫して特許と商標の両方を取り扱ってきました。また弁護士事務所で実務修業したことから多分訴訟業務の多い方の弁理士だと思います。もちろん外国業務もこなしています。本書はこのような日常的な業務の中から日々感じていることを実務家の感覚で理論化したものです。実務の合間に執筆するため部分的な濃淡の差があったり、表現が今一磨かれていない部分があるかもしれません。しかし、私が訴えたかった趣旨は伝えられたと思っています。私が仕事をする上で最も重視しているのは顧客が特許や商標を取得する目的です。依頼主はただ単に特許や商標を取得することを目的としていません。出願することのみをもって事足れりとするケースは別としても、弁理士は特許や商標を取得することのみをもって目的としてはならないと思っています。これが有効に経営にプラスし、さらには経営資源化しなければならないと思っています。本書はそのような意識、感覚で執筆しました。
 さらに本書の特徴はこの種の学術書としては異例に「ですます」調で執筆したことです。特許関係の本は難解とされ、中でも特許権侵害の部分はとくに判り難いところです。これを日常業務で忙しいビジネスマンに判り易く平易に説くのが本書の使命と思っています。また本書は私が講義する大学院の学生用テキストとしても使用します。最近の学生は活字離れをしていますので、学生でも入り易いようソフトな雰囲気がでるよう工夫してあります。
 なお、本書は平成18年特許法改正によるいわゆるシフト補正に関し触れていません。この改正法は発明の単一性に関するもので、脱稿時に詳細が不明であり、また明細書の補正、出願の分割には関連しますが、クレーム解釈や特許権侵害の問題に直接の影響を及ぼさないと考えるからです。
 浅学非才の私がこのような本を執筆できたのは関係するすべての方々のご指導ご支援の賜と思っています。まずは私に仕事のチャンスを与えてくれた顧客の皆様です。実務家は仕事がなければなかなか思考しないものだからです。また学校の恩師及び弁理士、弁護士等実務界の先輩に感謝します。30数年の永きに亘り弁理士業務を続けてこられたのもこれら多数の諸先生、諸先輩のご指導があったからです。最後に本書を上梓することができたのは株式会社産業科学システムズの酒井広美氏のお陰です。心より感謝の意を表します。

  2006年12月

 東京・赤坂にて      
 浅 野 勝 美





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