■ はじめに
本書は都立科学技術大学大学院の知的財産法特論の教科書として執筆した。
知的財産法に関する教科書には優れたものが多いが、学者の手になるものが多いため、実務的に重要な部分の説明が欠落していたり不足している場合がある。又、初学の者には判り難く感ずることが多い。このようなことから、特許庁企画「工業所有権標準テキスト」が出版された。これは特許編、商標編、意匠編及び流通編からなり、私も策定普及委員の1人として参与し、大学院の講義でも使用してみた。しかしながら、元来が職業高校向けに編集されたものであるため、内容的に大学院の講義用テキストとして不足するところがある。このため私は適宜プリントを配布して補ってきたが、これも煩雑であった。
本書はこのような背景から執筆したものであるため、次のような特色をもっている。
知的財産法を網羅的に解説するのではなく、実務的に重要なポイントを取り上げ解説した。これは、講義回数15回という制約があるためである。読者は本書と他の教科書とを比較することにより、何が重要であるか分別することができると思う。
取り上げたポイントに関しては、体系化を図った。これにより、読者は知的財産法を概観することができる。
解説にはすべて根拠を明示した。本書の読者は技術系であるため法的思考には不慣れな者が多い。そのような読者が難解と言われる特許法等を短時日のうちに理解するには、単純明快な原理原則を示す方がよい。本書の記述はすべてこの方針に従がっている。
実例及び設例を設けることにより、理論を活写乃至活用するように努めた。知的財産法はビジネスの世界で用いられるものである。よってケーススタディがより重要である。読者の多くがビジネス人志望であるため、これに対応できるようにした。
読者から弁理士志望者が現われることも考慮し、一部の回例えば第2回、第8回等では、弁理士論文試験にも対応できるよう記述を工夫した。弁理士志望者は他の問題をまとめるに当たって参考にすることができる。
例えば第9回、第12回、第13回等では、専門紙掲載の論文を用い、専門家の視点と同一の視点から知的財産法を見ることができるよう工夫した。
最後に「産業財産権101の常識」と名付けた練習問題を揚げた読者はこれを全問正解し常識とするようにして社会に巣立っていってほしい。
本書は弁理士一筋の実務家として生きてきた私が、21世紀を担う若人へ贈る細やかな一書である。本書により知的財産法に関心を向け、弱体化しつつある日本経済の立て直しを図ることができる人材が生まれれば望外の幸せである。
本書は実務を行ないながら限られた時間の中で執筆したため、不十分なところもあると思うが、それは他日に補充したい。
終りに、本書の出版にお力添えをいただいた(有)アポ及び浅野特許事務所の皆様に心からお礼を申し上げる。
2002年10月20日
日野・勝雲堂にて
浅 野 勝 美
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