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パテント vol.44 No.10 p78掲載

サービスマーク登録制度の導入に伴う
経過措置について

掲載誌パテント vol.44 No.10
本体価格500円
判型・頁数B5版・164頁
ISSNコードISSN 0287-4954
発行日1991年10月10日
発行所弁理士会


■ 目次

1.はじめに
2.継続的使用権=出願しない場合
  (1)対象となる者
  (2)使用権の範囲
  (3)混同防止表示
  (4)差止請求について
  (5)どこで主張し、誰が認めるのか
3.先願主義の例外=出願した場合
4.優先的登録=出願した場合
  (1)特例出願
  (2)特例期間中に出願されたサービスマークの取り扱い
  (3)特例出願が認めらる場合
  (4)特例出願の主張手続
5.重複登録に伴う調整措置
  (1)混同防止表示
  (2)不正使用による取消審判の特例
  (3)不正競争防止法の適用
  (4)存続期間の更新登録の特例


1.はじめに

 わが国の商標法は先願主義をとっており、加えて使用実績を問わない意思主義により先願者に商標登録を認めている。したがって、この法律を建前通りに運用すると、今後これまで自己が使用していたマークが他人の先行登録により使用できなくなるという事態が予想されることになる。これではあまりに不合理であるので、改正法は現実の使用実績を最大限に尊重する措置を取った。
 経過措置の重要な柱は継続的使用権、先願主義の例外及び優先的登録である。

2.継続的使用権=出願しない場合

 継続的使用権は、乙が同一サービスマークについて登録を受けたとしても、甲は自ら出願・登録しないでも、その使用してきたサービスマークを引き続き使用することができる権利である。
(1)対象となる者
 @既使用者
 継続的使用権を主張できる者は、当然のことながら、当該サービスマークを既に使用していた者であり、使用していない者又は使用予定者は含まれない。
 既使用者の範囲は、下図の通りである。【図表省略】
 A不正使用でない者
 既使用であっても、他人の有名商標への只乗り等、「不正競争の目的」で使用した者は対象でない。
 B承継人
 継続的使用権者より「当該業務を承継した者」も継続的使用権が認められる。
(2)使用権の範囲
 継続的使用権が認められる範囲は「現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行なっている範囲内」、すなわち同一サービス、同一マーク、同一地域に限られる。類似範囲、別地域には及ばないのである。
 したがって、将来、マークを変更したり、業務を拡張したり、使用地域を拡大した場合には、当該サービスマークを使用した営業活動はできないことになる。
(3)混同防止表示
 継続的使用権は商標権との間にサービス、商品の出所の混同を生ぜしめるような事態となった場合には、商標権者又は専用使用者の請求により混同防止のための表示を付することになる。
(4)差止請求について
 継続的使用権は前述のように単に抗弁権であるから、この権利をもって抵触する他人のサービスマークの使用を差し止めることはできない。
(5)どこで主張し、誰が認めるのか
 継続的使用権は抗弁権であるから、侵害訴訟手続において、法廷の場でこれを主張することになり、この権利の有無を認めるのは裁判官である。

3.先願主義の例外=出願した場合

(イ)出願の日の取扱い
 特例期間、即ち、平成4年4月1日より9月30日迄の出願(予定)であれば、先後願関係がなく、同一出願として取り扱われる。したがって、この期間中は、出願人はむやみに先願を争う必要がない。
 先後願に関する出願日のイメージは下図の通りである。【図表省略】
(ロ)商品商標とサービスマークとの先後願関係
 商品に係る商標(商品商標)とサービスマークとの間にも類似関係は成立するが、特例期間内に限り、商品商標とサービスマークは全く別々の世界のものと取り扱われ、したがって、類似関係、先後願関係もみられない。

4.優先的登録=出願した場合

(1)特例出願
 今回経過措置により、次の要件を満たせば特例出願となり、先行、先使用マークの有無にかかわらず、原則として優先的に登録される。
@既使用マークであること
A不正競争の目的でないこと
B特例期間中の出願であること
Cその他の登録要件を満たすこと
 単にサービスの提供地や内容を表示するマークやありふれたマークからなるもの、公序良俗を害するおそれのあるもの、他人の周知、著名なサービスマークと抵触するもの等、他の一般的登録要件を満たさないマークは原則通り拒絶される。しかし、通常殆どの拒絶理由は先後願関係であるため、特例出願による優先的登録は大変利益ある取扱いとなる。
(2)特例期間中に出願されたサービスマークの取り扱い
(イ)使用マークと未使用マークとの出願競合
 この場合は特例出願が優先され、使用マークが登録され、未使用マークは拒絶される。 例えば、次のようなケースがこれに該当する。【図表省略】
(ロ)使用マークの出願競合
 この場合は原則として出願された使用マークがすべて重複して登録される。
 しかし、使用マークの知名度に優劣があるときは、これを著名マーク(商標法第4条第1項第15号相当マーク)、周知マーク(同第10号)、単なる使用マークにランク分けし、夫々、同順位間では重複登録を認め、順位間に上下があるときは高知名度マークを優先して登録し、他方を拒絶する。
 例えば、次のようなケースがこれに該当する。【図表省略】
(ハ)未使用マークの出願競合
 この場合は、現行法の同日出願の取扱いと同様に処理される。すなわち、まず、当事者間で協議し、協議不調のときは、特許庁で行なうくじにより選定された一の出願のみを登録する。
 以上の関係を図式化すると、
著名マーク>周知マーク>単なる使用マーク>未使用マーク
となる(式中>は優先の意味)。
(3)特例出願が認めらる場合
 次に、特例出願が認めらる場合(○)と、認められない場合(×)を類型化し、図示する。【図表省略】
(4)特例出願の主張手続
 特例出願による利益ある取扱いを受けるには、その旨を出願と同時に書面により主張し、かつ、出願されたサービスマーク及びサービスが出願前から日本国内において使用されていたという使用事実を証明する書類を出願から30日以内に特許庁に提出しなければならない。

5.重複登録に伴う調整措置

(1)混同防止表示
 一方(乙)の登録サービスマークの使用により他方(甲)の業務上の利益が害されるおそれがあるときは、甲は乙に対し、混同を防ぐのに適当な表示をサービスマークに付すべきことを請求することができる。
(2)不正使用による取消審判の特例
 乙が不正競争の目的で甲のサービスと混同を生じるような登録サービスマークの使用を行なったときは、何人(甲も含まれる。)も乙のサービスマーク登録を取り消すことについて、特許庁に審判を請求することができる。
(3)不正競争防止法の適用
 不正競争防止法の適用除外規定が適用除外となり、乙が登録サービスマークの使用をした結果、甲の営業と混同を生じるようになったため、甲の営業上の利益が害されるおそれがあるときには、甲は乙に対し、不正競争防止法に基ずきその使用の差止等を請求することができる。
(4)存続期間の更新登録の特例
 サービスマーク登録に係る権利の更新登録の審査では、通常の審査に加え、出願マークの知名度の審査、即ち、他人の周知、著名サービスマークとの抵触関係について再度審査される。




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